大きな事件がありました!

いつの間にか今年も2月が終わろうとしています。年始早々地震や事件があり大変なスタートの年になりましたが、個人の調律師として大きな出来事(事件)が去年ありました。それは、16年間使ってきたピアノ調律師専用、最高峰のピアノチューナーが去年の11月11日を最後にハードごと壊れたことです。全く動かなくなりました。20年近く音叉と耳だけでやってきて、完全独立する直前の1年ちょい前から使い始めてきてやっと形になってきた時、独立後の自分を実践でも精神面でも支えてきてくれた相棒でした。この相棒のおかげで1日8台や9台の調律といった独立前ではあり得ないハードな仕事の時も難なくこなしてこれました。

 

音叉やデジタルチューナーを使ってA=440HzやA=442Hzといった正確な基音のピッチを測定することは調律師にとっては当たり前のことなのですが、長年愛用したものがなくなるのは不安に駆られるものと思っていました。しかし、今現在同じものを購入しようと思うと15万円ほどしてしまいます。さらに毎年必ず12500円(2年だと24000円)の更新料もかかるとの事。さらに世界中の優秀な調律師のデータをとって数年かけて開発して性能が大幅にアップしていることを聞けば聞くほどに、また同じように機械に縛られてしまうことを考えただけで恐怖を感じる自分がいました。知人に最新版を持っている人がいるので現物で確認しましたが、今の自分には必要ないことがわかりました。今の自分は使うほどに逆に調律が下手になる気もしました。

 

 機械の性能が良くなるほど融通が効かなくなる。本来、耳だけの調律はもっとクリエイティブで自由なもので、もっとアバウトです。その曖昧さがキモになります。機械だと理想の響きや倍音構成、理論上の正確さを出すために基本的に順番も決められています。いくらAiの発達によってデジタルの完璧で美しく正確なものだけで全てがうまくいくものではないということを嫌というほど体験してきました。

「正確だと言われているものが全てではない」使い方によっては素晴らしい仕事をしますが、(無駄がなく圧倒的に仕事が速い)耳だけだと2時間ほどかかるものも1時間強で済みます。おかげでデジタルとアナログのメリットデメリットをじっくりと研究することができました。 ピアノの周りで犬が吠えようが、大音量のテレビがついてたり、大声で話されようが、飛行機が飛んでこようが、体育館で休み時間に生徒が大勢走り回ったり、大声を出したりしても、同じ音程で音が鳴っていないかぎりは何の問題もなく仕事ができます。それはそれで素晴らしいことですが、現実的には幅広いご要望のお客様やニーズに対応するにはそれだけではやっぱりダメなのです。最終的には耳も使わなければなりませんから、最初から機械は使わないという選択もやっぱりアリなのです。機械の奴隷からはもう卒業しよう!

 

 ということで、音叉の代わりと最終確認がグラフで出来ればいいということで今ひとつ信用できない激安チューナーを導入したところ、これで十分!むしろこれまでと響きがあり得ないレベルで全く変わって、前のチューナーは最後の数ヶ月は一部分壊れていた疑惑すら出てきました。お客様のウケもよく、仕事が楽しくて仕方がないといった状況が、3ヶ月経った今も続いています。これは言い訳ですが、そのおかげもあってブログ更新もサボっていました。やっと仕事も落ち着いたところです。 

 

デジタルチューナーを否定しているわけではありません。あの最高峰のデジタルチューナの特徴は、コンサートチューナーモードなどがあって、鳴りの悪いホールのピアノも最適な倍音設定によって響きのあるピアノに変えてくれるという魔法のようなモードがあります。そのようなモードは基本的に響きを失う調律師(そのような道具を使ったりピンの回し方、打鍵や音の止め方に要因がある)にとってはありがたい機能でしょう。でも、自分は響きのないピアノを響くようにしたり、ホールなどで必要な遠くにまで音を飛ばすことのできる調律やあの海外メーカーの実施している狂いにくい調律法はおかげさまで得意(?)になりましたので、現在全く必要を感じていません。むしろ、響き過ぎるピアノをいかに音楽的に深みのある落ち着いた高級感のある響きにするのか?ということも、求められる状況にある調律師なので、そちらの方ををこれまでとの技術と同じように磨き上げていきたいと考えたいます。

新しいチューナーには当時の最高級チューナーにない機能があって非常に役に立っています。自分の調律曲線を瞬時にそのピアノの最適な(妥協点ともいう)インハーモニシティと共にグラフで表示してくれます。それだけで十分。それは間違った方向性の場合の修正に非常に役に立ちます。基本は何も考えず調律師の資格の試験に必要な学校時代に習った手順通り耳で実施すればいいのですから、自分にとっては最強です。道具は使いようだということですね。道具に使われてはいけない。不思議なことにこういったデジタルのソフトがそこで起動してあるだけでそれぞれ仕上がった音色や響きが全く変わります。調律師との相性も確実に存在するとも思います。

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