一番多い質問 絶対音感があるのですか?

 

 春爛漫ですね!

何十年も調律師をしていて、圧倒的に一番多い質問は何かと言いますと、絶対音感があるんですか?というものです。実は昨日も今日も聞かれました。いろんな形で答えてきましたが、答えは「絶対音感はないです」なんですが、お客様(質問者)は何が聞きたいのかというと、おそらく「ピアノの調律ができるんですから耳がいいんでしょうね?」という感じでしょうか。「当然絶対音感とかがあるんでしょうね〜?」ともよく言われます。

 絶対音感とは西洋音楽における12音階の ドレミファソラシドを楽器にかかわらず、楽器に触らなくても見なくても当てることができる。例えば、救急車のサイレンの音を、シーソーシーソと音階で聞こえてしまう。犬の鳴き声や扇風機や冷蔵庫などの環境音なども、ファ、ファ、という音階で聞こえたり、自分の頭の中で、ドレミファソラシドを鍵盤などのガイドなしに再現できてしまう能力のことを言います。これは作曲家が頭の中でメロディーが流れてきて楽器がないときにでも楽譜に書いておくことが出来ると言ったように非常に便利な能力ですが、移調に弱いという欠点もあります。音楽家は絶対音感があるとメリットも多いでしょう。

一方ピアノ調律に必要な聴力は、国際基準で定められたA=440Hzという中音のラの音を基準にしてドレミファソラシドという音階を作るために音と音の間に発生する「唸り」を聞きながら1秒間に1回や2秒間に一回といったリズムを刻みながら、道具を使って操作するために必要な能力です 。

絶対音感のように基準の音がなくても音階がわかるものではなくて、基準の音を聞いた上で音階を作っていくという違いでしょうか?

とりあえず簡単に「絶対音感はあるんです」と言ってもいいと思うのですが、やはり嘘はつきたくありません。しかし説明しようとすると、「絶対音感はないですが相対音感にむしろ近いですね〜」という風に非常にややこしいことになります。

絶対音感があっても音程(音の高さ)は完璧に正しくはありません。精度は人によってまちまち。実際は「だいたい音感」というのが近いかのかもしれません。ピアノの調律などのように正確な音の高さを求められるときは、やはり音叉なりチューナーなどの機械を使って絶対的な基準音を決めなければなりません。

 

ピッチも指定されたりすることもあるので、音の高さの違いからくる響きの好き嫌いを除外して頭の中で柔軟に消化して対処しないといけません。


何が言いたいかというと、調律師に絶対音感は必要なく、むしろ邪魔になります。ということです。ちなみに自分がこれまでに知り合った腕の良い調律師に絶対音感がある人はいないです。全く違う能力だということですが、なかなかわかってもらえないですよね〜。これ。

 やはり結局は「絶対音感はないですが相対音感にむしろ近いですね〜」これでしょうか。。。

このフレーズを使ったら、「相対音感?なんですかそれ?」となって、30分以上話が進んだこともあります。そうなると、ピタゴラスコンマ(うるう年みたいなものですか?といった勘の鋭い人がいました)だとか、平均律だとか、純正律だとか、キルンベルガーだとかインハーモニシティとか、セントだヘルツだなんだかんだと専門的な話につながっていってしまいますが、興味のある方は、調律時に教えて下さい(笑)お答えいたします。。が、ネットで調べた方がわかりやすいかもです。

 

ちなみにヘンデルのピッチは420Hzと言われているし、モーツアルトは421.6Hzの音叉を持っていたとも言われています。ヘンデルの頃で今よりも半音近く(半音を100とすると80%)低い。そして、いわゆるバロックピッチというのはもっと低くて415Hz、ちょうど半音低い隣の鍵盤の音で調律されていました。フランスのバロックでは半音どころか全音の492Hzで演奏されていたとも言われています。

管楽器における基準ピッチの国際基準を定めようということになり、1834年の440Hzから1859年に一旦435Hzになって再度1939年に440Hzに変更。日本では440Hzに統一されたのは1945年の第二次世界大戦終戦後3年経った1948年のことですから、そんなに昔の話ではないですね。それまでは日本では435Hzでした。バロック時代の人は今の人よりも絶対音感がある人で、今の時代と半音違うということになり、なんのこっちゃっていう話です。 めんどくさいですね、、 

最後に、ホロビッツやグレン・グールド、ルービンシュタインと言った有名ピアニストの専属調律師として有名であった故フランツ・モア氏は2Hzの単位で音の高さがわかると豪語してきた演奏家を何人も見てきたが、真にピタリと当てた人は誰もいなかったと語っています。ホロビッツは絶対音感があると本人は言っていたが、数Hzの違いまでは分からなかったそうです。そして、音叉こそパーフェクトピッチだと語っています。

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